あらすじ
観光の儲けが、観光業にとどまるかまち全体に波及するか。どのまちがうまく儲けているか。これを知って、観光と地域経済の関係を科学的にマネジメントできる時代になった。
調査データから経済波及効果を推計し、定量的な比較や課題の把握ができる
センチュリーライドの場合、イベントの発信元の美瑛町に分け前があまり回ってこない
観光消費もおなじと懸念される。受け皿の町内産業が儲けを逃がす構造になっていないか? ー2018-07-11編集済ー
センチュリーライドの経済波及効果 図45-1
北海道経済産業局がまとめた「2016年 丘のまちびえいセンチュリーライド」の経済波及効果(注1)によれば、イベント開催事業費1800万円を投下して得られた経済波及効果は、北海道全域に6800万円、美瑛町に1453万円と推計されている。この数字から、美瑛町が自立したまちづくりをめざすときの課題を考える。
経済波及効果とは 図45-2
経済波及効果は、農産物の販売・観光消費・公共事業・企業招致などあらゆる経済活動において新たな需要が発生したとき、地域経済に効果が広がる大きさを推計したものとなる。ー下の図45-2は、上の図45-1経済産業局の報告書のデータを引用し、経済波及効果の仕組みを示したもの
直接効果ー地元の関連業者に直に落ちる新たな需要額
1次波及効果ー地元の関連業者が地元の取引業者から原材料を調達する→新たなモノ・サービスの生産を誘発
2次波及効果ー直接効果と1次波及効果の一部が雇用者所得(賃金)となり、地元の買い物の需要を誘発する→新たなモノ・サービスの生産を誘発 (その他に雇用誘発効果、税収効果)
直接効果 図45-2
イベントの参加者や主催者が消費した新規需要額に対し、域内に落ちる最終需要額を直接効果と呼ぶ。北海像全域で消費された新規需要額41百万円、町内で消費された最終需要額10.63百万円なので、
直接効果は10.63百万円
(直接効果の)域内調達率=美瑛町10.63÷北海道41=0.26 ~大きいほどよい
この数字0.26は観光客の消費需要の26%しか町内に落ちないという意味になる。ちなみに、ベンチマークとして「平成27年度ニセコ観光圏経済波及効果調査業務」を引用すれば、ニセコ地域(蘭越町、ニセコ町、倶知安町)では0.92に達している。(注2)
この比較から言えること
イベントの発信元の美瑛町にあまり分け前が回ってこない
観光消費についてもおなじと懸念される
受け皿の観光産業が儲けを逃がす産業構造になっていないか?
域内調達は、参加者が払った宿泊費・飲食費・みやげ品・参加費や、役場が発注した費用ごとに、産業連関表に当てはめて仕訳する。産業連関表にはおよそ次のような区分が組み込まれている。(注3)
町内で販売したモノ・サービスの全額 →域内調達〇
町内で販売したモノ・サービスで町外から調達したもの →域内調達X ~道内チェーン・道の駅
町外で販売したサービスの金額(旭川や富良野の宿泊費、町外で購入した航空券など)→域内調達X
1次波及効果 図45-2
町内の業者が得た最終需要額(直接効果)の原材料やサービスを町内の業者から調達するときに生まれる効果である。町内の業者に新たな需要が生まれ生産が誘発される。それに見合った粗利益(粗付加価値≒GDP)も誘発される。これらを併せて1次波及効果という。
1次波及効果は2.36百万円
1次波及効果と直接効果の比率=2.36÷10.63=22.2% ー大きいほどよい、
1次波及効果と直接効果の比率が少なければ、新たな需要の恩恵が一部の産業に集中し、まち全体の産業に広がっていない。この数字22.2%は、ベンチマークとして「平成27年度ニセコ観光圏経済波及効果調査業務」を引用すれば、ニセコ地域(蘭越町、ニセコ町、倶知安町)では32%~37%に達している。(注4)
この比較から言えること
美瑛町において観光消費の需要を受けた観光業から、町内の業者に取引があまり波及しない
観光業だけ儲かるが、観光のメリットがまち全体に広がらない産業構造の問題か
観光に対する町民の理解が低いことと関係あるだろう
2次波及効果
2次波及効果は、直接効果や1次波及効果から得られた雇用者所得が、買い物という新たな消費を誘発し、新たな生産と粗利益(粗付加価値)を誘発したものを併せて求める。ほかの地方都市とあまり変わらないと考えられるので、詳細は省略する。
まとめ
1.自治体において、地域経済の政策を経済波及効果で評価する流れとなっている。
産業連関表をつかった経済波及効果の推計が、800人弱のサンプル調査を含め委託費用700万円・実働8か月でできる時代になった(注2)
経済波及効果を、簡単にエクセルで推計できるツールが提供されている(注5)
2.センチュリーライドのデータによれば、観光経済が観光業から町全体にあまり波及していない。ニセコ観光圏域(3町)と比べて、観光客のニーズを満たしきれない地場産業の限界があらわれている。ニーズにあわせた産業構造に変えないといけない。
STEP1.観光客数×客単価=観光消費だけでなく、域内調達を増やすこと(直接効果)
STEP2.観光消費を町内のモノ・サービス生産で賄うー地産地消、6次産業化(1次波及効果)
STEP3. 域外からの調達の要らない、美瑛の観光サービスは可能か?
STEP4. 原材料から包装まで地元一貫生産のブランド品は可能か?
3.2013年5月23日付「データから見る美瑛の観光客の実態と今後の可能性」(丘のまちびえいDMO)に示された想定経済効果=約116億円の数字(注6)は、経済波及効果ではない。センチュリーライドの係数をつかえば、経済波及効果41.16憶円となる。また、購入しないひとの比率を考慮するともう少し低くなる。(注7)
by Noriaki Gentsu @NorthQuest, -びえい未来ネット
メールマガジンを登録して新着情報を受け取る→クリック
注1.「サイクル・イベントの経済波及効果調査」 (北海道経済産業局) →資料
注2.「平成27年度ニセコ観光圏経済波及効果調査業務」(株式会社ドーコン)のP55 →資料
注3.注2のニセコ観光圏の場合、P44の属性別サンプル(781人)についてP45の属性別旅行単価と属性別費目単価を求め、交通費・宿泊費・飲食費・買い物代・その他の金額をP47の産業部門別に配分して、P56以降の産業連関表を使って、P55とP50の経済波及効果を求めている。
注4. センチュリーライドの場合、ニセコ観光圏の調査のP55にある投入係数と域内自給率および逆行列係数が公表されていないので、簡便法として最終需要額と1次波及効果の額の比率を比較した。
注5. 「第6回北海道観光産業経済効果調査」→資料 、「経済波及効果分析ツール」(北海道経済部)→資料
注6. 「データから見る美瑛の観光客の実態と今後の可能性」(丘のまちびえいDMO) →資料
注7.直接効果:116×0.26=30.16億円、1次波及効果:30.16億円×22%=6.63億円、2次波及効果:30.16億円×14.5%=4.37億円
Comentarios